街の家

1 施主と設計士と施工業者との「対話」を重視したスローライフな家創り
 施主と設計士さんとの出会いから竣工に至るまでには少なくとも6年間の歳月が流れています。その内,着工から竣工までにはほぼ1年間の時間を要しました。単なる時間の経過だけをみても,たいへんな“スロー・ペース”です。しかし,この間ただ悪戯に時間を浪費していたわけではありません。設計士さんは施主の想いにじっと耳を傾け,その想いが具体的なカタチとしてイメージできるまで打ち合わせを繰り返しながら,最良の“図面”を描いてくれました。施工業者さんたちはその図面を“現実のもの”とすべく何度何度も施工プランを練り直しながら工事を進め,そして竣工にこぎ着けました。その間,数限りない「対話」の機会をもちながら,本設計を経て着工してからもなお,場合によっては設計図の段階から書き直していくことも有り!の,そういった極めて濃密で質の高い時間だったと認識しています。
 施主は設計士さんの「何に」惹かれたのでしょうか。それは設計士さんのHPに端的に表現されています。以下に引用します。『家づくりは街づくり・環境づくりを合言葉にクリーンで無限な太陽熱を利用した独自の温風式床暖房”FITz SOLAR”を取り入れ、自然素材にこだわりながら対話型設計とオープンシステム(分離発注式)による家作りをしています。』結果として,オープンシステム(分離発注式)は取り入れられなかったものの,施工業者さんの“はからい”で限りなく「分離発注式」的に工事を進めてくれた点を踏まえて,まさに我が家はこのコンセプト通りの家になったと思います。
 いくつかのエピソードについて紹介します。
・風呂場の位置…本設計も終盤にさしかかった頃,設計士さんから「風呂場の位置がどうも気になる。」との指摘を受けました。そのままの位置だと外から風呂場の位置が容易に分かってしまうし,入浴中に窓を開けることができないという理由でした。指摘されたのはもっとものこと(できれば,代案を考えてほしい!)ではあるけれど,本設計終盤にきていろいろな部屋や空間の収まりがほぼ計算され尽くしているこの時点では位置を変更できそうなスペースを見出すのは容易なことではありませんでした。それまでのプランを白紙に戻して居室全体のレイアウトを見直さざるを得ないほどの“大手術”が必要なことは施主にも察しがついていたので,この段になって大幅見直しを依頼するのには正直言って“ためらい”がありました。

 しかし,それまでのプロセスで多くの「対話」を繰り返してきた施主と設計士さんの間には,その辺りの“微妙な想い”をくみ取っていただくことに何の障壁もありませんでした。「もう一度,考え直してみましょう!」設計士さんの言葉に背中を押された形で大幅なレイアウトの見直しが始まり,それによって現在のような非常に機能的なレイアウトと印象的な外観を伴った設計ができあがったことは言うまでもありません。

・氾濫する情報や商品への対応…現代はインターネットを通じてかなりの情報や商品を入手することができます。建築界においても業者より一般消費者の方が豊富な商品知識を持っていることも珍しいことではありません。我が家の建築においてもインターネットを通して購入した相当数の「施主支給品」が使われています。床の石材,洗面台及び水栓金具,木建具の型ガラス,収納棚,タイルカーペット等々,どれも我が家の建築を特徴づける上でポイントとなる品々です。

 しかし,それらの品々には輸入品も多く,国内の建築材料の規格には適合しなかったり品質が充分でなかったりするものも多く,かえって“割高”になってしまうものも存在します。また,施主支給品として自ら購入しないまでも様々な建築材料についての商品情報も容易に入手できるので,場合によっては効果を過剰に期待したり機能に不安を覚えたりすることもあります。こうした情報や商品の氾濫し,施主だけでは判断不能に陥る危険性がある中で我が家に適した建築材料や商品を取捨選択し,施主支給とする場合には施工上最も良い購入のタイミングを図る上で,設計者や施工業者との「対話」は欠かせなかったし,実際に施主支給品として購入を考えていた品々や導入を検討していた設備の中には見送って正解!と思えるものもかなり多くありました。

・減額案検討と「対話」の効果…予算を度外視したプランは存在し得ません。我が家も当初のプランでは遙かに予算を上回ってしまいかなりの減額を考えなければいけませんでした。一度ほぼ理想的に創り上げられたプランに減額のメスを入れる作業ほど居たたまれないものはありません。しかし我が家の場合,上述してきた「対話」の効用によって施主の願いや意図が共有化され「○○は取りやめ」といった単なる“引き算”的な減額検討ではなく,機能や品質は落とさずにコストだけを下げる減額案ができたように思います。

 例えば材料費の中で決して小さな割合ではないフローリング材については,設計士さん自ら地元の業者と交渉し,結果的には当初の設計よりも意匠的にも面白く且つ低コストな床材を確保できました。また,施工業者さんは上述の施主支給品と当初の設計通りの仕様品との比較を単なるコスト面だけでなく品質や意匠性などを総合的に考慮できる情報の提供を心がけてくれ,こちらも有効な減額案作成の一助となりました。

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