風のぬける家

多くの人が家というものに憧れや夢を持ち、その夢を実現すべく家を建てますが、はたしてどれほどの人が建てた家に満足し、その家を終のすみかにしようと思っているでしょうか。
私達家族も、家に多くの夢や希望を持ち、その希望を叶えるべく家づくりに参加させて頂き、職人さん達もその希望を実現しようと一生懸命努力してくださいました。毎日現場に足を運ぶことで設計士さん、職人さん達が私達のためにいかに住みよい家を建てようと努力してくださっているかが伝わってきましたし、仕事に対する真剣な姿勢には頭が下がる思いでした。手間ひまを惜しまず建築に関わってくださった皆さんが「住み手にとって住みやすい家を作ろう」という同じ気持ちを持って立てて下さった家は、私達家族が想像していた以上に居ごごちがよく希望通りのすばらしいものでした。家族で家づくりに参加させて頂いたおかげで「皆で作り上げた」という満足感と子供たちにとってもよい思い出ができ、家に対して深い愛着を感じています。私達の夢を120%実現してくださった設計士さん、職人さんたちに深く感謝するとともに、いかに私達家族がこの家で幸せを感じているかをお伝えしたいと思い応募させていただきました。
設計を御願いするにあたって、私たちは思いつく限り家に対する私達の要望や生活スタイルについて文章にし設計士さんにお渡ししました。主な要望は下記のような事でした。どの部屋(全ての空間において)も明るく風通しが良いこと、住宅地に位置しながら日常を忘れさせてくれるような空間があること、どの窓からも緑が眺められること、リビングを一番大切な場所とすること、上下の音が気にならないこと、庭を眺められるお風呂があること。
これらの要望は十分に叶えていただきましたが、住んでみるとこの設計なくしてはこのような満足感は得られなかったであろうと実感しています。
図面ではよくわかりませんでしたが、部屋の配置は実に動線に無駄が無く理に適っていました。キッチンが家の中央に位置しているため、帰宅する子供達の気配をすぐに感じ取ることが出来ますし、1階の全ての部屋を見渡すことができます。キッチンが孤立することなく、また戸を閉めることにより各部屋の機能も充分に果たすことの出来るつくりになっています。また、リビング、ダイニング、和室の部屋は平屋。洗面所、浴室、玄関、トイレ等の普段あまり長い時間を過ごすことのないスペースの上にプライベートルームが配置されており、このことでリビングとプライベートルームが完全に独立した状態になり上下の音を気にせず生活が出来ます。リビング、ダイニング、和室は2階の音にわずらわされることがなく、日常を忘れさせてくれる空間を作り出す上で重要なポイントになっています。
また、キッチンの東西に対称に設けられた中庭はなくてはならないものであり、中庭を向いて生活をしているという感じさえしています。中庭のおかげでリビングは南北を緑に囲まれ開放的な感じがし、広々とした空間を創り出しているように思います。玄関とリビングは中庭を挟んでいることで独立性が保たれ、リビングが静かで落ち着ける空間となりうるために重要な役割を果たしています。玄関から一歩中に入ると、まず中庭の木々が目に入り、日常から抜け出した感じがします。この中庭は、風の良い通り道にもなっており、家の中に涼しい風を呼び込んでいます。
もう1つの中庭においては、まさに浴室から眺められるようになっており、その眺めは一日の疲れを取り、ほっとさせてくれます。湯船につかりながら窓を開けると木の香りが浴室に漂いまるで旅館の露天風呂に入っているかのような気持ちになります。くつろぎすぎてつい時間のたつのを忘れてしまいそうです。雨が降っているときなど、ポタリポタリと葉から雫が落ちる光景が間近に見られ大変風情があります。また、中庭はキッチンからも楽しむことができ、ドアーを開けるとキッチンに涼しい風を送り込んでくれます。このように二つの中庭は私達の生活を予想以上に快適なものにしてくれました。
窓においても風の通り道を考えてつけられているため風通しが大変良く、1階の平屋部分の壁には高い位置にルーバーの窓がついているため外出の折にも風が通るようになっており家に中にはいつも新鮮な空気が動いているような感じです。全ての部屋に窓があることでどの場所も明るさが確保されており全ての窓から緑が見えるように樹木が植えられています。我が家で一番大切な場所と位置づけていたリビングは家族にとって寛ぎのスペースとなっており音楽を聴いたりビデオを観たり、ほとんどの時間をここで思い思いに過ごしています。昼間はカーテンを開け、緑の風景を取り込み、夜は間接照明によってまた別の表情を見せ、その静けさと落ち着きは山の別荘を思わせます。窓から入る涼しい風にあたりながら気の感触を楽しみつつ床にごろんと横になり傾斜天井の茶色に塗られた垂木を眺めているとなんとも幸せな気持ちになります。
入居して1年が経過し、暑がり寒がりの家族がこんなに快適に夏、冬を過ごせたことはこれまでありませんでした。
寒い冬の朝、起きるのが辛いと感じていたことが嘘のようです。床暖房(フィッツソーラー)を入れたことで毎日が幸せな気持ちで暮らすことができました。設計当初、そして実際に住むまで床暖房の効果については半信半疑できたが予想以上の効果が得られ大満足です。朝起きたとき、外出から帰ったとき、いつでも家中ほんわか暖かく家にいれば寒さ知らず、家にいるのが一番幸せと暖かい我が家で過ごすことにありがたさを実感しました。1年を過ごし、この家を建ててよかったと自信を持っていうことができます。

家族全員が建てた家に満足し、どんな家より自分の家が一番だと胸を張って言うことができるのは、オーダーメードというよりハンドメイドで建てたという思いがあるからだと思っています。設計士さんが施主の希望を盛り込んだ図面を書き、職人さんが図面通りに作り上げるといったやり方が一般的ではないかと思いますが、私達の場合は素人ながら毎日現場に行き家づくりに参加させていただきました。工事が実際に始まるまで私たちがこんなに家づくりに関わることになるとは思ってもいませんでしたが、建築現場に足を運び設計士さんや大工さんとお話をするうちに、「建ててもらう」という立場だけでは物足りなくなり、自然に家づくりに参加していました。
まず最初は防腐、防蟻効果のため、備長炭塗料を土台に塗ることに挑戦しました。塗り残しがないように気をつけて、大工さん、設計士さんにも手伝ってもらっていただき塗り終えました。
1つの作業が終わると、一歩完成に近づいたような気がしてますます家づくりに熱が入りました。設計士さんと打ち合わせの中で床板をどういったものにするか小さなサンプルだけでは決めることができず、設計士さんと共に材木屋さんのショールームにもうかがいました。ショールームに敷かれている何十種類もの床板を実際に歩き、自分のイメージに合ったものを見つけることができました。ちょうど製造中止になったもので在庫処分のような形でよい買い物ができました。
この床板を見つけたことでボンヤリとしていたイメージが具体化され自分たちの求めていた物は何か、方向性を見出すことが出来ました。思い通りの床板を購入でき大満足だったのですが、後にこの床板を選んだことで大変な苦労がありました。在庫処分品であったためサイズも様々で、3種類の濃淡が混在しており、気に入っていた色は全体の三分の一しか入っておらず、リビングに重点をおいて配置してもらうことにしました。
板を色別に分類することから始まり、どのように並べたらイメージ通りのリビングになるか少ない板を何度もリビングに並べ全体を見てはまた配置を変える といった作業を繰り返し設計士さんと何回もあたまを悩ませました。
また、お気に入りの床板が余ったのでリビングボード、リビング壁の一部、ダイニングの棚の天板、和室の床の間に使うことにしました。大工さんからは、更に、余った床板を押入れに使うことを提案していただき、購入した床板は余すことなく全て使い切りました。多くの場所に床板を使ったことで家全体に統一感が出て、硬くて傷のつきにくい床板はとても重宝しています。

またあるとき、設計士さんから輸入の建具を扱う会社が日本を撤退するという情報を頂きました。在庫処分品を倉庫に見に行き、急遽採用することにしました。立派な無垢のドアを数枚買うことが出来当初の設計よりずいぶん良い仕上がりになりました。自分で足を運び実際のものを見て選んだことで、充分納得した上で決めることが出来ましたし、自分の思い描いていたイメージどおりの仕上がりになり大変満足しています。

家づくりにどっぷりと参加しているうち、壁、天井にはる板に家族でワックスをかけようということになりました。休日は子供たちを混じえ、平日は私が毎日現場に行き数時間大工さんが作業をする傍らで何百枚という板にワックスをかけました。埃を払う人、ワックスを塗る人、乾拭きする人、というように子供たちと役割分担を決め、最初は「たいへんだなあ」といっていた子供たちも自分たちの手で家を作っているんだという気持ちがわき、いつの間にか楽しみに変わっていきました。今でも壁や天井を見上げて「この板にワックスぬったよね」と時々そのときのことを思い出しています。子供たちが自分の家に愛着を持ち、最高の家だと思う理由はきっと自分たちが作ったという思いがあるからだと思います。そして、大変だったけれど楽しかった家作りの想いでは子供たちの心に残ることと思います。

私達家族は家づくりに参加させていただき多くのことを経験させていただきました。
家作りの始めから完成するまで、悩み、迷い、建築の途中、何度無理な御願いをしたことでしょう。家づくりに関わってくださった皆さんが多くの時間と労力を惜しみなくかけてくださり、この家が出来上がったと感じています。
良い家づくりには材料や技術もさることながら、住み手にとって住みやすい家を作ろうという設計士さん職人さんのひたむきな思いと努力があってこそ実現するのだと思います。家づくりに関わってくださった皆さんの思いがたくさん詰まっているということを忘れずに暮らしていきたいと思っています。

 

2006年9月 記

 

FITZ SOLAR へのご感想メール(2006.02.13)